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市長随筆集その4(第151話以降)

第182話 - 変動・変化の中で - 平成22年7月1日

 今年の自然界は、年明けから気候変動が続いています。2、3月頃に夏日のような気温に驚かされ、5月というのに真冬の気温に震え上がりと、自然の不思議を存分に学習させられました。このような気象の変化は、農作物に大きな影響を与え、最も被害を受け易い茶生産者の皆さんは、茶園管理に大変な苦労をされたようです。しかし、「味は狭山」の唱のとおり、緑茶の仕上りは順調のようですから、是非ご愛飲いただきたいと思います。
 気候の変動に合わせるかのように、政界にも大波が押し寄せています。「政治とカネ」「普天間問題」などを要因として、鳩山総理が退陣し、菅氏が新総理に就任しました。日本の顔として、この国を引っ張る最高責任者の、短期間の交代が続いています。国民にとっても、諸外国との信頼関係の構築という視点からも、決して好ましいことではありません。菅内閣には頑張っていただきたいと思います。
 気候が変動し、政治も大きく変わる中で、私達は自然の変化に敏感、迅速に対応する術(すべ)を磨き、政治の本質を見抜く力を養って、変化という荒波から身を守り、孫子の代に、心豊かな社会を遺せるように努力すべきと思います。

第181話 -君子 その言葉の重み- 平成22年6月1日

 この原稿は締切りの関係で5月5日、子どもの日に書いています。昨4日、鳩山総理は、懸案となっている米軍普天間基地移設問題の解決を図るため、沖縄県を訪問しました。「最低でも県外」に移すことを約束して、約半年間努力されてきたようですが、沖縄で断片的に示された腹案なるものは、前政権の日米合意案を若干手直しをし、基地機能の一部を鹿児島県徳之島に移すというものでした。
 全く期待に反する総理の説明内容に県民は怒り、失望し、政治不信は極度に達しています。耳に心地良い言葉を連発して日米合意案を覆し、県民の期待を大きく膨らませた総理の言動は、単なるお詫びの言葉で済む問題ではありません。
 「県外移設」の約束は「党としての公約ではなく、私自身の発言」であり、「海兵隊の勉強を深めれば深める程、抑止力の維持の関連性についてその重要性の認識が強くなった」と言うに至っては、党の代表、一国の総理の見識としては余りにもお粗末と言わざるを得ません。
 論語に「巧言令色鮮(すくな)し仁」とありますが、総理の言葉からこれを連想することは、悲しいことです。

第180話 -命 とは- 平成22年5月1日

 先日、NHKスペシャル「呼吸器を外して下さい」という番組が放映されました。「閉じ込め症候群」と呼ばれる難病と闘うAさん(氏名は公表されている)は、意識はしっかりしているものの、生きる機能のほぼ全てを奪われ、呼吸器、唯一の意思伝達手段としてのセンサー、点滴で「生命(いのち)」を保っています。漆黒の闇の中で向き合っている「生きる恐怖」は、私達の想像を超えて、凄烈なものと思います。
 「完全な閉じ込め状態になったら死なせて」と奥さんに訴えるAさんを、ノンフィクション作家柳田邦男さんが尋ね、「命は一人のものではなく、家族と共有しているのでは(要約)」と語りかけます。Aさんは柳田さんの好意に感謝しつつも、「命は自分のもの、家族のために生きろと言われてもわからない(要約)」と字幕が流れます。
 命は地球の重さに例えられますが、Aさんの闘いを思うにつけ、軽く「命の尊厳」などを口にする、自分自身の浅薄さを恥じます。そして、絶望的な「閉じ込め」が進行する中で、なおも命の意味を問い続けるAさんの強靱な心に、お慰めする言葉は不要かも知れません。だからこそ、時に、命について瞑想することも、大切かと思います。

第179話 -新年度国家予算に思う- 平成22年4月1日

 平成22年度国家予算(案)が衆議院を通過して参議院に送られ、新予算の年度内成立が確定しました。不況の続く中、年度内成立は安心の材料であり、その政策効果に期待したいと思いますが、子ども手当などに象徴される背伸び予算は、後年度予算の財源問題などに多くの不安を抱かせる予算と言わざるを得ません。
 鳩山政権は、圧倒的多数の有権者の期待と支持を受けて誕生しましたが、「政治とカネ」問題などに躓(つまづ)いて支持率の低下が続いています。国民の次善の選択(自民に失望し、民主を選択)を読み違え、「数による独善の政治」を続けるならば、国民の失望は深まるだけと思います。国民の願いは、クリーンでオープン、誠実と信頼が実感できる政治であり、政策について説明を尽くし、理解を求め、結果責任を常に明らかにすることが国民の期待に応える政治であると思います。
 税収の伸びが期待できない時代に、今後、マニフェスト実現のためには13兆円を超える恒久財源が必要とも言われていますが、この莫大な財源をどこに求めるのか明らかにされていません。有権者の責務として、その財源対策に関心を持ち、チェックすることが大切と思います。
(3月8日記)
 

第178話 -大相撲- 平成22年3月1日

 相撲は「国技」と言われています。「野見宿禰(のみのすくね)」物語は別として、その歴史は「奈良、平安時代、天皇は毎年7月宮庭で、諸国から召し出した相撲人(すまいびと)の取組を観覧した【広辞苑】」とあります。力士は、天皇の御前ということから「まわし」は勿論(もちろん)、狩衣(かりぎぬ)、袴(はかま)を着けて相撲を取ったということです。
 このように古典的、伝統的格闘技である相撲は、様式美とも表現される相撲の形、それは単に、鍛え上げられた肉体の美しさや強さのみならず、技の美事(みごと)さ、堂々の立居振舞など、超人が醸し出す心技体融合の気を求め続けた歴史であり、その上に「今」があると思います。   先人の汗と涙で築き上げられた相撲界ですが、近代化の遅れが指摘され、急増する外国人関取の文化意識のずれにどう対応すべきかなど、難問が山積する中で、朝青龍関が度重なる不祥事で引退に追い込まれる一方、協会理事選挙では、絶望視されていた貴乃花親方が当選しました。横綱の引退は残念ですが、若い親方の理事就任を契機として、格式と良識を併せ持つ相撲協会、強さと美しさ、品格を備えた力士の活躍によって「国技」が守られることを期待したいと思います。

第177話 -命を守る予算 期待と不安- 平成22年2月1日

 鳩山政権が誕生して、「変化」に期待する多くの国民が、新政権の目指す「新しい政治」への政策転換をじっと見つめていますが、政権もまた、その期待に応えるために努力をしています。コンクリートから人へのスローガンのもとに、事業仕分け作業を通じての予算編成過程の一部公開など、分かりやすい政治を演出していますが、何よりも、50年に及んだ自民党中心政権のしがらみを断ち切り、政官業の癒着構造を打破し、「政権交代」を国民に印象付けようとする姿勢に期待したいと思います。
 そのような中で、2010年度予算編成大綱が発表されました。総理は「命を守る予算」と総括していますが、マニフェストにこだわり、やり繰り算段の大盤振る舞い、の感なきにしもあらずです。入るを量(はか)らず「全ての道はマニフェストへ通ず」とばかりの予算編成は、将来の負担増への懸念を強くします。
 成熟(?)した民主主義は、「大衆迎合政治」への道をたどると言われますが、マニフェスト第一主義の政治は、大衆迎合への甘い誘いであり、今こそ、「負担と給付」あってのマニフェストであることを再認識してほしいものです。

第176話 -動き出した変革の政治- 平成21年12月1日

 今年も余すところ1ヶ月足らずとなりました。日本も含めて主要国は、世界同時不況の影を色濃く引き摺〔ず〕り、政治をも巻き込んで激しく揺れ動いた1年でした。経済不況の引き金を引いたアメリカでは、1年前大統領選が戦われ、変革(Change)を訴え、やればできるんだ(Yes we can)を合言葉にオバマ氏が当選しました。
 民主党を基盤とするオバマ政権は、船出から1年、高らかなドラの音も消え、横波、向い風に翻弄〔ほんろう〕されて、少し迷走気味にも思えます。核廃絶宣言で拍手喝采〔さい〕を浴びた大統領ですが、平和外交は思惑どおりに進まず、内政では、失業率の上昇、医療保険改革問題などで窮地に立たされています。
 一方日本でも、8月の衆議院選で民主党が圧勝し、鳩山政権が誕生しました。「友愛」の政治理念を高く掲げ、「コンクリートから人へ」の転換を訴えて、脱官僚、政治家主導の政治の実現を目指して頑張っています。しかし、総理の「マニフェスト」「私が決めます」の発言、演説等で多用される「国民の皆様」の言葉は、いささか耳につきはじめました。軽い言葉は、時に「巧言令色鮮〔すく〕なし仁」の謗〔そし〕りなきにしもあらずですが、「真〔まこと〕の仁者」の政治を望みたいものです。よいお年をどうぞ。

第175話 -どうなるか長寿医療制度-(後期高齢者医療制度) 平成21年11月1日

 日本は皆保険国家で、全ての国民は、国民健康保険(国保)か被用者保険に加入し、健康と医療が保障される制度が確立しています。この社会保障制度は、相互扶助の理念を基本とし、医療費等については被保険者保険税(料)、患者負担、公費(税)等によって賄われています。
 今、34兆円と言われる総医療費を中心として、医療制度のあり方の議論が続いていますが、特に、75才以上の方(後期高齢者と呼称)の医療費が総医療費の約30%を占めることから、平成18年に健康保険法等の一部を改正し、新たに、後期高齢者医療制度を創設、平成20年度から実施されました。
 この制度は、10年以上の歳月をかけて議論し法制化されましたが、「後期高齢者」「75才以上」の定義も含めて、うば捨て制度、高齢者差別等の批判の声が上ったため、長寿医療制度と名称を変え、保険料の軽減策等も講じながら運用されています。
 鳩山政権は、この制度を廃止するとして検討を進めていますが、どのような制度を構築するにせよ、増加を続ける医療費をどう適正化し、誰がどのような形で負担するのかの冷静な議論が先決で、拙速の愚は避けるべきと思います。

第174話 政権交代  平成21年10月1日

 8月31日の各紙朝刊は、民主党圧勝308議席、を大見出しで伝えていました。歴史的勝利、革命的の記事も見られたとおり、多くの国民の政権交代への期待が、地殻変動を引き起こす程に強かったということでしょう。それと共に、小選挙区比例代表並立制選挙が極度に機能したとき、政治は混乱し、安定した国家経営を破綻(はたん)させかねない制度であることも思い知らされました。
 このような選挙結果をもたらした’09総選挙ですが、その特徴は人より政策、政策より党という政党選択が前面に出た選挙ということです。このことは、このような政治体制を生み出した有権者も、鋭い政治感覚で政治を監視し、その信頼性、実行力を見極め、それを検証する義務のあることを認識する必要があると思います。
 いずれにしても、脱官僚政治を掲げる新政権ですが、ムダを省くためにムダを重ね、新しきを求めた筈(はず)が、いつか来た道とならぬよう期待したいと思います。そして政治の重みは1億の民の重みであり、政権が軽くなれば民は吹き飛ぶことを思うとき、新政権の誤りなき舵取(かじとり)を祈るや切、の心境です。

第173話 日食の夏 -備えあれば- 平成21年9月1日

 じめじめとした梅雨がやっと明け、焼けつく真夏の太陽を浴び、汗まみれで仕事に精を出す姿を思い描きましたが、今年もまた、梅雨の実感のないままに聞く梅雨明け宣言に首を傾(かし)げ、やっと弱々しい太陽を喜んだのも束の間、早くも9月を迎えました。
 この間、西日本方面を中心として豪雨災害が続き、多数の尊い人命が奪われました。つい先日、東海地方を襲った地震では、崩れた書籍の山に埋もれた女性の死も伝えられました。地震予知は不可能と言われていましたが、今回も予知はできませんでした。気候変動の影響は、色々な形で人々を苦しめていますが、人知の及ばぬ現象もあれば、人間の努力によって被害を最小限に食い止めることもできます。
 今年の夏は、沖縄方面などで皆既日食が観測されました。打ち続く豪雨災害、地震、日照不足の夏は、先人達が恐れ戦(おのの)いた「天変地異」の不吉さを思わせます。これから台風シーズンを迎えます。科学万能の時代であっても自然を畏(おそ)れ、自らの生活を省みて深く考え、時に応じて災禍に勇気をもって立ち向う冷静さも必要かと思います。備えあれば憂いなし。

第172話 シュトルチーナさん 平成21年8月1日

 入間市は、ドイツ連邦共和国バイエルン州・ヴォルフラーツハウゼン市(以下ヴォ市)と姉妹都市提携を結んで22年が経過しようとしています。それは、ベルリンの壁崩壊2年前のことでした。当時、両市民の間には、1万1千粁(キロ)の隔たりを懸念する声もありましたが、22年間の両市民の交流は途絶えることもなく、密度の濃い草の根活動が展開されました。文化、スポーツ交流、青少年異文化体験交流事業等の推進は、国際化の進む時代背景の中で益々その重要性は増してくるものと思います。
 これらの交流の歩みを思うとき、ヴォ市の職員として、交流事業の中心的役割を果たしておられるペーター・シュトルチーナ氏を忘れることはできません。「入間は第2のふる里です」と日本語で叫び、自宅には日本と入間を紹介するコーナーを設けて日本酒を愛飲する彼は、交流事業の象徴と言えます。
 その彼が春の叙勲で、旭日双光章を受章されました。この年末に定年を迎えるシュトルチーナさんには「ありがとう、ご苦労様」の言葉を贈り、これからの交流事業が若い世代に引き継がれ、世界平和の掛橋として更に充実することを祈りたいと思います。

第171話 永遠の闘い 平成21年7月1日

 人類の歴史は、ウィルスとの闘いの歴史でもあります。姿を変えて襲いかかるウィルスに対し、人類の英知を結集して応戦し、免疫ワクチン、抗ウィルス薬の発明発見などによって危機を乗り越えました。「種痘のジェンナー」「結核菌のコッホ」「破傷風菌の北里」など数多くの人々の献身的努力によって病気の恐怖、苦しみから解放されました。
 今、科学万能の時代になっても、解明の進まない病気が人間を苦しめていますが、最も恐れられているウィルスの一つとして鳥インフルがあります。約10年前に、鳥から人への感染が確認され、人から人への感染も時間の問題としてその対策の議論が進んでいます。その矢先、メキシコで豚インフルの変異による「新型インフルエンザ」が発生し、人から人への感染が確認されたと発表されました。各国で感染拡大も続いていますが、季節性インフルと同様の感染部位はのど、呼吸器に止(とど)まるウィルスということで、殆どの感染者は回復しています。
 私達は徒(いたず)らに騒がず恐れず、されど侮らず、ワクチンなどの確保に期待しつつ、手洗い、うがいなどの励行で、人類の強敵新型ウィルスと対峙(たいじ)することが大切と思います。

第170話 介護保険制度の課題 平成21年6月1日

 介護保険制度が発足して10年目を迎えます。人口減少、高齢社会の切り札として、多くの議論がある中でスタートした制度ですが、10年の歳月を経ても難問山積の状況に変わりはありません。
 この制度は、施設介護中心の福祉から、在宅介護への転換を目指して動き出しましたが、家庭介護の困難さなどを理由として施設介護の要望が強く、デイサービス、ショートステイなどの施設不足が指摘されています。また、核家族化の影響は、1人暮らし高齢者の介護、高齢夫婦間の老々介護の現状に大きく影を落としています。これに加えて、認知症を発症する高齢者の増加により、給付申請手続きなどを含め、制度利用の意思確認の難しさも指摘されています。
 一方、介護現場で働く職員も、介護報酬が、必ずしも労働の質、量に応じたものとは言い難いとしてその現状に失望し、離職する者もあって、マンパワー不足が指摘されています。
 これからも、負担と給付のあり様を議論し、税導入の是非も含めた抜本的対策の確立を求めつつ、地域社会の連携と絆を強めて「地域力」の機能する社会の構築に努め、この介護保険制度の、安定的、持続的な運営が図られるよう努力しなければならないと思います。

第169話 求められる政治の姿 平成21年5月1日

 新聞、テレビなどで伝えられるニュースは、景気悪化、倒産、失業等の気の重くなるニュースばかりです。そして4月5日、北朝鮮は、人工衛星を打ち上げ、衛星は周回軌道に乗ったと発表しました。その後の検証によれば、人工衛星に名を借りたミサイルの発射であって、日本から東北地方の上空を通って日本から2~3000kmの太平洋上に落下したとのことです。地上への落下物もなく、大山鳴動、事なきを得ましたが、独裁国家の独善的暴挙には、〝怒〟の一字あるのみです。
 内憂外患(ないゆうがいかん)、難問山積の日本にとって、国民に勇気と希望、元気を与えられるのは、「信頼される政治」以外のなにものでもありません。政治が有効、迅速に機能し、たとえ国民に痛みを伴う政策であっても、説明責任を果たす政治こそが、国民の待望する政治の姿ではないでしょうか。
 民主政治は、世論を尊重し、敏感に反応すべきは当然でありますが、それのみをもって良質な政治は生まれません。成熟した民主政治は、とかく大衆迎合政治の道をたどると聞いたことがありますが、日本が、そのような国家にならないことを願っています。

第168話 春を想う 平成21年4月1日

 〝冬来たりなば春遠からじ〞 (イギリスの詩人シェリー)は、厳しい冬の先に必ず来るものを信じて、寒さを乗り切ろうとする人間の強い意思を感じます。四季という自然の営みは、温帯に生きる日本人にとって、 肉体的にも精神的にも、欠くことのできない大きな恵みです。
地球を含めた全ての天体を包み込む宇宙という壮大で神秘的な空間は、古代ギリシャの時代から、天空に馳(は)せる人類の夢を育(はぐく)み、人々の幸せを守っています。
 今私達は、星空を見るのも困難な環境の中で、春夏秋冬の移ろいのあいまいさに戸惑い、その行く末に不安を感じています。地球という小さな惑星が直面している気候変動は、人間生活は元(もと)より、生態系にじわり、じわりと悪影響を与えています。
 それはそれとして春、市内はピカピカの一年生と桜の花で飾られていますが、間もなく茶樹をはじめ、多くの緑が一段と輝きを与えます。政治・経済が混沌(こんとん)として、先行き不透明感が漂 う中、春は私達に限りなく明るさを与えてくれます。どんなに暗い世相であっても、時が廻(めぐ)れば確実に春が訪れ、人々に昂揚感(こうようかん)、元気を与えてくれる日本を守るために、努力を重ねなければと思います。

第167話 「御互様(おてげえさま)」という文化 平成21年3月1日

 私の子どもの頃、雑木林(神社)、畑(原っぱ)、農家の庭先は遊び場御三家と呼べる程の場所でした。雑木林は、子どもにとって文字どおり宝の山、鎮守の森と重なって風の又三郎(宮沢賢治)の世界でした。畑は小鳥の巣を提供し、豊かに実るトマト、キュウリ等の野菜が子どもを誘惑します。また、農家の庭先には大きな柿や栗の木が茂って、稔(みの)りの秋を振(ふ)り撒(ま)
き、おやじさんは、いたずら小僧を追い散らすのに手こずったようです。遊びが高じて「悪さ」となり、親に連れられて、「おっかねえおじさん」(所有者)の所に謝りに行くこともありました。おやじさんの決まり文句は、〝誰にもあらあ、おてげえ(御互)様だ。これから気をつけろ。〞こんなことが繰り返されて、小さな地域社会の平穏が保たれていました。
 今、日本社会で起きている人間関係のトラブルの中には、「御互様」で、おおらかに解決できる問題もあるような気がします。もちろん、責任追及、損害賠償は民主主義社会のケジメとして必要ですが、高齢化、人口減少が進む日本社会で「御互様」文化とも言える先人の知恵から学ぶことは、多くあるように思います。

第166話 矩(のり)を超えず 平成21年2月1日

 人間は、過去に学ぶことの大切さを知りながら、同じ過ちを繰り返し、苦しみの渦中に身を置くことになります。昨年、アメリカの「サブプライムローン」という、得体の知れないマネーゲームによって金融危機が発生し、「リーマンショック」 も加わって瞬く間に各国の金融市場を大混乱に陥れ、実体経済も世界同時不況の様相を呈しています。
 1929年、ニューヨーク株式市場で株価が大暴落し、1930年代の世界経済は大不況に襲われ、日本も昭和の大恐慌として、多くの悲惨な社会状況が作り出されました。そして、政治の混乱に乗じて軍部が台頭し、破滅の道を歩んだことは記憶に新しいところです。
 今、私たちは「100年に1度」の不況に見舞われており、その側面として非正規社員等の解雇という雇用問題が大きな社会的問題となっています。自由経済体制が多くの不条理を生み出し、必ずしもベストの制度とは言えません。しかしながら、新制度を作り出せない以上、政治的機能を作用させて、現行制度を世界基準としながら、金融・経済のシステムというよりもそれを操る「人」が、欲望を抱えつつも、矩を超えず、地道に進む以外に、不況克服の王道はないと思います。

第165話 振り込め詐欺 平成20年12月1日

 昔から、人間あるところ争いあり、犯罪ありですが、最も温厚と思われていた縄文人の出土頭蓋骨の中にも、傷跡のあるものも発見されていると聞くと、人間の業の深さを思い知らされます。
 今、数千年以上の時を重ね、進化した人類が到達した場所は、大変便利で効率的な居心地の良い「民主主義社会という楽園」です。しかし、人は怠惰に走り、実りをもたらさぬ木は伐(き)り捨て、結果としてその居場所を失いつつあります。また、コンピューターを主人公とするデジタル社会は、人の正常な思考を退化させ、姿なき犯罪者をつくり出しています。特に、携帯電話、ATMなどを使った「オレオレ詐欺」は別の「振り込め詐欺」に拡大し、多くの被害が発生しています。狭山警察署管内でも、1月から現在までに1億円以上が騙(だま)し取られています。
 人が信じられない社会ほどやりきれないものはありませんが、不審な電話や訪問者は断固拒絶し、誰かに相談してから行動すべきです。急(せ)いては事を仕損じるという格言がありますが、急いては騙されることを肝に銘じ、無法者の跋扈(ばっこ)を許してはなりません。
年末は特に注意が必要だと思います。どうぞ良いお年をお迎えください。

第164話 熱中症 平成20年8月1日

 本格的夏の到来とともに、連日、真夏日、猛暑日、熱帯夜の情報が疲れた体にまとわりつき、熱中症のニュースが気を重くします。
 今思えば、昔も暑い日はありました。灼熱(しゃくねつ)の太陽が強く肌を刺し、目まいを覚えるようでしたが、夜になれば冷気がわいて涼を呼び、日中でも木陰を流れる風は涼風となって、人々に束(つか)の間の安息を与えてくれました。
 ところで辞書によれば、気温に関する場合は「暑い」と書いて「寒い」と対比させ、普通の場合は「熱い」に対し「冷たい」と書いて区別しているようです。それはさておき、昔は、「熱中症」に当たる言葉として「暑気中(あたり)」という穏やかな表現がありました。「熱中」とは物事に心を集中する、夢中になるという語意を考えると「暑気中」とした先人の感性は、豊かな自然環境の中で磨かれたように思います。
 暑いは心で感じ、熱いは触れて感ずるものとするならば、少しでも五感を働かせて「暑気中」の対策を講ずることが必要です。平均気温は確実に上昇しているようですから、人工的暑さ対策のみならず、自然と向き合うすべを会得して、この暑さを乗り切りたいものです。

第163話 英知を集めて 平成20年7月1日

  サミット(主要先進国首脳会議)が、北海道洞爺湖畔(とうやこはん)で7月7日から開かれます。世界が直面している多くの重要な課題の解決に向けて協議が始まりますが、日本は議長国として会議取りまとめの役割を担い、福田首相の手腕に期待が集まります。今回のサミットでは、環境問題や食糧問題などが主要テーマになるようですが、特に地球温暖化防止の切り札として、二酸化炭素(CO₂)削減の中期目標数値が合意されるかどうかが焦点になります。
  確かに、持続的発展を図りながらの環境対策は、長期的視野での計画的取り組みが必要ですが、議論のみで貴重な時間を空費するならば、致命的環境破壊に見舞われるのは、遠い将来のことではありません。
 人間は、安全で快適な生活環境を求めて知恵を出し合い、時に争いを繰り返しながら、今日の世界を創(つく)り出しました。そのために多くの貴重な自然と豊かな心を失って。人類は、神の戒めに従わずエデンの園を追放されたアダムとイヴ(旧約聖書)と同様に、無限に拡大する欲望の虜(とりこ)であり続けるならば、地球という楽園から追い出されるのは必定です。
  サミットの成功を祈るや切です。

第162話 自然は黙して語らず 平成20年6月1日

 4月の雨量は、地域によっては平年の1.8倍とか、70年振りの雨量といったように、感覚的に多かったということが、数字で裏付けされました。このためか、野山の緑は一段と鮮やかで、狭山茶も豊作のようです。ところが、今年の雨は豪雨型のため、雨水は地表を流れて雨量の割には地中に浸透する量が少ないと聞きました。
 しとしと型は伝説となって、春雨じゃ濡れて行こうなどと言う粋な台詞が通用しない春は、味気ない気がしないでもありません。そのことより、異常気象がデータ確認をしなければ語れないとすれば、人間の直感力の鈍化であり、自然に対する感性劣化は深刻な問題です。自然という人間の最大、最良、無二のパートナーの発するサインを読み取れず、ただ騒ぎ続けるならば、イソップの狼少年の二の舞は必定です。
 中国伝来の季節用語に二十四節気があります。季節に対する東洋人的思想は、単なる文化ではなく、時時に変化する自然現象を素直に受け止め、自然への恐れと結びつけて自らを律してきた先人の智慧の深さを思います。もし私達が感性を磨き、自然を恐れる暮らしを今一度受け入れるならば、自然の怒りも鎮まると信じます。(5月9日記)

第161話 地球への恩返し 平成20年5月1日

 今、世界各地から地球の悲鳴が聞えてきます。それらの異変の殆どは、「地球温暖化」現象によって引き起こされているのではないかという懸念は、どうやら現実のものとなりつつあります。地球という太陽系の小さな「水の惑星」は、数万年という時の刻みの中で、寒と暖を調節し、生命体の進化や淘汰を通じて全ての生命を守り、育てるための神秘的な活動を続けています。
 40億年を超える地球と生命体の歴史は、闘争と和解、成功と失敗のドラマですが、その中で人類は、二足歩行の獲得をはじめとして、短期間に劇的な進化を遂げました。特に恐竜の絶滅という僥倖を巧みに捉え、地球の王者となった人類は、「恐竜成金」的存在かも知れません。そんな人類が、地球という大恩人に背を向けて、地球を鞭打つ所行(温暖化)は、恐竜の悲劇の序章です。
 7月に開かれる洞爺湖サミットは、環境サミットとも呼ばれ、議長国日本の責任は重いものがあります。総論賛成、各論反対の温室効果ガスの削減をどのように定め、実効性と確保するのか日本の手腕が問われます。地球への恩返しのため、温暖化を自分の問題として考えたいものです。

第160話 何故事故は繰り返されるのか 平成20年4月1日

 今年も痛ましい事故が続きます。特に私たちにとって交通事故は、最も身近な事故の一つです。先日、熊谷市で起きた交通事故は、まさに殺人行為とも言うべきひどい事故でした。
 運送会社の運転手と言えば、プロ中のプロとして、高度な運転技術と順法意識を強く求められる職でありながら、泥酔状態で車を運転した揚げ句、衝突事故を引き起し、相手車輌では2名の方が尊い命を奪われました。事故を起した車には、酔った2人の同僚も同乗していたと聞いて、言葉を失った人は多いと思います。しかも、この運転手は数年前から飲酒運転を繰り返していたらしいことが判明し、酒類を提供した飲食店主も逮捕されました。勤務先会社は厳しい管理をしていたのでしょうか。                
 逮捕された運転手は、震えながら詫びの言葉を口にしたと言いますが、 どんなに反省し、どんなに懺悔しても、失われた命は戻るわけではありません。泥酔運転手の人生が日々地獄を思うとき、誰もが一滴の酒の恐ろしさを心に、体にたたき込む生活を送らなければ、このような重大事故を防ぐことはできません。絶対に飲酒運転はしない、これは、ごく当り前の〈 人間の誓い 〉です。   

第159話  民主主義と選挙  平成20年3月1日

 名宰相と謳われたイギリスのW.チャーチル卿は「もし他に、少しでもましな制度があるとすれば、民主主義ほどつまらない制度はない」と批判したと言われています。卿がどのような思いで語ったかは分かりませんが、強いリーダーシップと毒説で知られた個性派の政治家にとって、手続き重視の政治制度に、煩わしさを感じたのかも知れません。確かに民主主義は「時間と金のかかる制度」ですが、国民の力で立派に育てていかなければなりません。
 日本の民主主義政治は、昨年の参院選挙で与野党の議席が逆転し、与党が3分の2を確保している衆院との関係で
複雑な「ねじれ国会」となり、政界には「政権ウィルス」が蔓延しています。政権を手にすることは、全ての政治家の夢であり、そこに良質な政治が生まれるのが理想です。
 しかし、民主主義の欠陥の一つとして、耳に心地好い政策が多く並べられ、いわゆる「大衆迎合政治」に走る危険性も指摘されます。選挙に勝つことは政治の一つの条件でありますが、選挙のための政治になっては、不幸になるのは国民です。一流の政治国家を自負するならば、冷静な論争を通じて、未来の国家像をはっきり示して欲しいと思います。

第158話 やはり地球が気になります  平成20年2月1日

 今年も、加治丘陵桜山展望台で、多くの市民の皆さんと初日の出を拝みました。
 地平線の雲の層も低く、ギラギラと輝きマグマそのものを思わせる太陽には、例年に比べ、より力強いものを感じました。市民の皆さんの幸せと入間市が平穏で活力に満ちた1年になることを祈りました。
 年末年始の気象情報は、全国的に大荒れの予報でしたが、幸いに関東地方は大変穏やかで暖かく、このような年末年始を過ごしたことは、あまり記憶にありません。正月のテレビは、地球温暖化による異常気象が、自然界や人間の生活に重大な影響を与え始めていることに警鐘を鳴らし、その対策が急務であることを訴えておりました。
 今、時代は目まぐるしく変わっていますが、それを動かしているのは人間以外の何者でもありません。世界ナンバーワンを競い、果てしなく広がる欲望に人類の幸せを見つけ出そうとしているならば、幸せの価値観を問い直す必要があります。そして、豊かさの尺度を見直さない限り、与えられた人類生存のための時間は、多く残されていないことを自覚すべきと思います。
 今年もよろしくお願いいたします。

第157話 永田町劇場 さて来年は・・・。 平成19年12月1日

 今年を回顧し、などと悠長なことを言っていられない程、政治は緊迫し、社会は事件、事故で混乱しています。参議院選挙では民主党が躍進し、安倍内閣が吹き飛ばされました。勝って兜の緒を締めたはずの民主党小沢代表も、辞意表明(3日後撤回)などという珍事を引き起こしました。権力争奪劇を演じる役者(国会議員)の大真面目振りに興味をひかれながらも、稽古不足のドタバタ劇に、いささか呆れ顔の方も多いのではないかと思います。
 政治は国民のためにあるというごく当たり前の台詞も、政治家が絶叫すると、かえって空々しい感じもします。国民のために”何をやろうとしているのか”を熱く語って欲しいものです。「徳ある者は必ず言あり。言ある者は必ずしも徳あらず」(論語)は、公人たる者の特に心すべき言葉と思います。
 国政という大舞台に上がった名優の皆さんが、大向こうから飛ぶ”民意”という掛け声に舞い上がって、六方を踏み損なった姿などを見るのは、贔屓であればある程つらいものです。来年こそは、観客の声に我を忘れず、掛け声倒れに終わらない感動の舞台を見せてもらいたいと思います。どうぞ良いお年を。

第156話 姉妹都市交流 平和を求めて 平成19年11月1日

 入間市とドイツ・バイエルン州ヴォルフラーツハウゼン市が姉妹都市提携をして、20年が経過しました。1987年10月に調印が行われましたが、これについては当初、市民間に色々な意見がありました。相手市でも、両市間の距離を中心にして意見があったと聞きました。しかし、調印後の両市間の交流は、多くの市民のご協力をいただいて年ごとに活発になり、相互公的訪問だけでも840人を数え、両市間の「心理的距離」は確実に縮まっています。
 先日、提携20周年を記念して開かれたヴォルフラーツハウゼン市特別議会に招かれ、議長、国際交流協会正副会長さんなどと訪独しました。この議会に出席された在ミュンヘン総領事丸山氏は、両市の交流について「他に例をみないような交流の濃さに驚いている。外務省も積極的に支援させていただく」と述べられました。ライナーベルヒトルト第一市長の「国家間に政治の衝突があっても、姉妹都市はそれを修復する力を持つ」というご挨拶が印象に残ります。
 ただ口先だけで平和を叫ぶよりも、草の根外交の実践が平和な世界づくりに貢献することを信じ、姉妹都市交流を推進したいと考えます。

第155話 ざわざわ(騒騒)の夏も終わって 平成19年10月1日

 今年は猛暑の夏であった、と気象庁が発表しました。8月16日には、日本の最高気温が更新され、熊谷などで40・9℃が記録されました。熱中症で命を落とす人も出て、異常な夏を印象付けましたが、これは単なる異常気象ではなくて、これが常態化する恐れのあることも指摘されています。温帯もしくは亜熱帯から熱帯気象に近づいているのではないか、ということです。そして、この異常高温に思考能力を失ったのか、社会全体もざわざわ(騒騒)感に覆われました。
 慎しみ深く、思いやりの心をもった日本人の所業かと疑うような残忍非道な事件の多発、善人を欺く卑劣な行為の横行する社会の出現をどう理解したら良いのでしょうか。そして、それらの異常を正し、導くための先達たるべき政治の世界が混乱の極にあることは、残念なことです。
 いずれにせよ、私達が戦後教育の在り方を反省し、政治が、「何でも世論(ポピュリズム)」型から脱却しなければ、ざわざわ社会はその深刻度を増すものと思います。平成19年の熱い夏を冷静な頭脳で総括し、訪れる厳しい冬に備えたいと思います。(9月7日記)

第154話 秋、再び言葉を考える 平成19年9月1日

 言葉というものは、人に勇気を与えることもあれば、傷つけることもあります。時には舌禍事件として大臣が辞任に追い込まれ、政治不信を増大させます。高い地位にある者は、イギリスのサッチャー元首相が「政治は言葉なり」として巧言令色を戒め、言葉の乱れ、無責任発言に警鐘を鳴らしたことに、しっかり学ぶべきと思います。
 これは、単に政治の世界のみならず一般社会の問題でもあります。言葉の乱れを時代の流れと諦観し、物分かりの良さを装う風潮が、何時しか社会の乱れを誘発しないか心配です。
 先日、ある新聞のスポーツ面に、「キャッチボール難民」という一文がありました。親子でキャッチボールのできる、公共空間の少ないことを指摘したものでしたが、難民という重い意味をもつ言葉が、こんなにも軽軽に使われていることに驚きました。
 戦禍、政治的混乱や迫害を避けて、故国や居住地外に出た人(広辞苑)を表す言葉は、もっと慎重に使われるべきと思います。
 そして、語義を軽視して、きれいな日本語を忘れ「軽い日本」の道を歩むことは、この国にとって大きな損失になることを銘記すべきです。

第153話 夏が来ると・・・ 平成19年8月1日

 紺碧(こんぺき)の空に沸き上がる入道雲、その豪快な自然の造形美に見惚(みほ)れる間もなく、その雲は全天に広がって天地を黒一色に染め上げ、やがて猛烈な雷雨となって万物に襲いかかります。稲妻、空気を引き裂くような轟音(ごうおん)、時に地の底から突き上げるような雷鳴に人人はじっと身を縮め、雷雲の通り過ぎるのを待ちます。やがて遠雷となり、雨足もぐっと弱まって空に明るさが戻る頃、恐怖の代償として、暑さに喘(あえ)いでいた人間に涼風の恵みがもたらされます。
 これは私の子どもの頃の、ある夏の日の情景ですが、大人たちの雷談義によると、秩父(戌亥・いぬい)の雷は、音は大きいが短時間で治まり、筑波(丑寅・うしとら)の雷は長時間続いて恐ろしいということでした(おぼろげな記憶ですが)。子どもたちも入道雲のルーツ、風向き、その強さなどから雷の強弱を判断し、外遊びから逃げ帰ったものでした。
 近年、透明な青空を目にする機会は少なく、沸き立つ入道雲にも元気がないことから、発生回数は別として、雷も淡白になったような気がします。「自然は教師」の言葉の通り、子どもたちの夏休みが、知識の裏付けとなる「体験」を数多く積み重ねる「良い機会」になって欲しいと願います。

第152話 今、農耕の民の末裔は 平成19年7月1日

 農耕民族といわれてきた日本人は、古来、狭い国土の中で、四季に適応する作物を作りながら平穏な生活を営んできました。そして、時代の変化の中で多くの争いに巻き込まれながらも、農業国日本の伝統を守り続けました。日本人が高い技術力を誇りにしているのも、自然から習得した知恵と経験を物づくりに昇華させた結果と言えます。
 そんな日本人が近代化への道を歩み、特に農業国から工業国への転換政策を推進した結果、日本の社会構造は大きく変わり、経済(工業)大国化の夢が実現しました。一方で、「ウサギ小屋」に住む「エコノミックアニマル」と痛烈な批判も受けましたが、武器も用いず国際競争に勝ったことは、特筆されるべきことであったと思います。
 そして今、異常な事件などが多発する日本社会を思うとき、農耕民族という「種」は、数百年で簡単に進化するものではないことを強く感じます。この深刻な社会現象を負の遺産と捉えるならば、ここで踏み止まり、過去に目を開いて冷静に未来を展望することが必要ですが、これは近代化の一過程として混乱は織り込み済みと考えるならば、休むことなく前進すべきです。農耕の民の末裔は、転換点に立たされています。

第151話 伝統 平成19年6月1日

 今年は暖冬と適度の降雨で、茶の生育にとっては最高の気候であったと思います。
 5月2日の八十八夜新茶まつりは天候にも恵まれ、会場は大にぎわいでした。このまつりに花を添えるように、茶産地入間を舞台とするテレビドラマ「夫婦道」出演者にも参加をいただき、盛り上がりました。
 入間市の伝統産業はお茶と繊維ですが、これらの産業は、安い外国製品の参入等によって、厳しい経営環境となっています。日本の社会は、情報技術革新が進み、それらのことによって効率性、合理性の追求が社会生活の最優先課題となり、人間生活にも大きく影を落としています。「伝統」の存在感が軽視され、「現代」という価値観のみが、社会を支配するという風潮は、幸せなことではありません。
 今を生きる私たちの責任は、先人の汗によって築かれた「過去」という蓄積をしっかりと未来に引き継ぎ、それが生かされるような「道筋」を示すことではないでしょうか。忽然として興った「機械文明」が、人類に大きな利益と深刻な不幸をもたらしたことを考え、伝統という人のぬくもりを感じさせる「文化」とその重みを、今一度、考えたいものと思います。

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